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開発秘話

 
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攪拌と脱泡を同時に行い、均質な攪拌結果を得ながらサブミクロン単位の気泡も完全に除去する・・・ 
	誰もが不可能と思い、手をつけなかった難題に挑んだ男の物語です。 開発開始から製品発表まで実に13年。「あわとり練太郎」の開発リーダーを勤めた株式会社シンキー専務取締役石井弘重がその13年を語ります。株式会社シンキー 専務取締役 石井 弘重
 
 
ヘラを使い、手で練っていたアルギン酸。「機械でできれば、これは売れますよ石井さん」そう言われて 「じゃあやってみましょう」と気軽に答えたのが、すべての始まりでしたね。
 
開発のきっかけは、歯科医師の方が作る入れ歯や義歯の話を聞いたことです。入れ歯や義歯は、最初に取る歯形の精度が非常に重要で、その精度によってしあがりがかなり左右されます。歯形を取るために昔から使われているのがアルギン酸という物質。もとは粉末状の物質で、それを水に溶き、ペースト状にしたものを使って口の中で歯形を取るんですね。口の中に入れて、歯に押し当てて、2?3分待つと固まります。非常にポットライフ(使用可能時間)が短いんです。従来は、ゴムのボウルのような容器に粉を入れ、熟練した医師が水を少しずつ入れながらヘラで混ぜていました。うまい方なら約1分ほどで混ぜ合わせます。患者さんの口の中に入れて固まるまでの作業時間を考えれば、できる限り早く混ぜることが求められたのです。それも、もし泡が残っていると、義歯をつくったときに凹凸ができてしまうからです。手で混ぜると無数にミリ単位の泡が入ってしまうし、力を入れて練るため非常に疲れる作業だったんですね。開発を始めた20年前は、歯科の現場では、「アルギン酸が練ることができて一人前」と言われていました。衛生士さんの技術レベルを端的に表す基準になったぐらい、難しい仕事だったんです。

それまでも、自動的に混ぜ合わせる機器は存在していました。でもそれは、非常に簡単な作りもので、ゴムでできたボウルの中に水とアルギン酸を入れて台にセットすると、モーターでボウルが回転するだけのものでした。その回転にあわせて、ヘラを適当に動かしながら練っていく仕組みです。ところが、その機器を導入しても、医師や衛生士の方はその機器を使わずにボウルとヘラだけで練っていました。余りうまくいかなかったのでしょうね。「この厄介な仕事をもし機械ができれば」と言う声を聞いたのが、開発のきっかけですね。アルギン酸を練るのが面倒だと思われていた方は多かったようで、当時、協力してくれたお客様からも「これができればいくらでも売れますよ、石井さん」といわれました。いくらでも売れると言われると、我々メーカーとしてはチャレンジしてみたくなるわけです。安請け合いの感もあったんですけど「じゃあやってみましょうか」ということで、開発に着手したというわけです。
 

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何もしらないところからのスタートでした。「遠心脱泡機の容器の中で攪拌できれば・・・」という発想が浮かんだ時 これはいけるかもしれない・・・」と。
 
といっても、攪拌や脱泡のノウハウがあったわけではありません。私どもはもともと、電子計測器の開発、販売だけを行っていましたから、なにもないところからのスタートでした。最終的に行わなければならないのは攪拌と脱泡。そこで、まずは従来からある攪拌機を応用できないかと考え、プロペラ式のものを試してみました。ところが、これは手で練るよりもかえって始末が悪かった。プロペラ式では、攪拌すればするほど泡を取り込んでしまうんです。それに、使用後のプロペラの掃除を考えると、毎回プロペラを脱着して洗うのはヘラを洗う何倍も大変で、とても現場では使えないということがわかったのです。脱泡については、真空脱泡という方法を使おうと考えましたが、これも真空にするための仕組みがかなり面倒で、応用は難しいという結論に達したのです。「これはとんでもないものに手を出してしまったのかもしれない」。そう考え込んだこともありました。

ですが、何度も実験を繰り返していくなかで、「プロペラやヘラがなくても練れればいいし、攪拌と同時に泡が取れればさらに効率的なのでは」ということに気づきました。アルギン酸の短いポットライフを考えれば、その作業が30秒以内で行えるようにするのが目標でしたから、同時に行えれば時間の短縮にも繋がります。そんな時に目にとまったのが、遠心脱泡機です。これは遠心分離器の原理で、遠心力を利用して気泡を大気中に放出してしまいというもの。ヘラを使って混ぜ合わせたアルギン酸を、遠心脱泡機にかけて脱泡だけ行ってみたら、時間のせいで固まりはしたものの、泡だけはうまく消えていたのです。それなら、遠心脱泡機の容器のなかでどうにか攪拌させることができれば、攪拌と脱泡が同時に、しかも素早くできるのではないかと考えたのが「あわとり練太郎」のイメージの根幹になりました。その攪拌力をつけるために頭に浮かんだのが〝遊星歯車〟のような機構です。惑星は太陽の周りを自転しながら回っています。それと同じように、遠心脱泡機の容器装着部分に回転力を与えることで、攪拌が可能なんじゃないかと思ったんです。最初はどうなるか不安でしたが、これが意外にもうまくいきました。そこで、この機構を採用することにしたんです。
 

 
ほんとうに大変だったのはそこからでしたね。 試作機の部品が飛び散って大ケガ寸前だったことも。
 
ただ、そこから実用化までが大変でした。うまく混ざるというのは分かったけれど、問題は遠心力によって生じる大きなG。脱泡には最低でも200G程度の加速度が必要だと考えていました。スペースシャトルの打ち上げ時にかかるのが7Gだと言われていますから、その約30倍です。一般の遠心分離機であれば容器は固定しておけばいいので、強いGがかかっても大丈夫ですが、容器を回転させようとするとそこに駆動部分が必要になります。そこで試作機にシャフトをはじめとした駆動機構を組み込んでみると、回転を始めた瞬間に壊れたり、部品が飛び散ってしまうんです。

私自身は機械いじりが好きで、バイクのエンジンを壊してみたり、もっと小さいころは身の回りにある、ありとあらゆるおもちゃとか機械をバラして、よく両親に怒られたりしてました。いってみれば理科系の好きな子どもだったんですね。試作機の設計も、ほとんど自分で行っていました。部品図を書いて加工業者に発注し、社内の片隅で組み立てていたんです。当時、社内はまだ計測器をメインに動いていましたから、私一人で片手間にやっている状態でした。バイクのエンジンを組み立てるよりは簡単でしたが、自分で作って実際に動かしてみたら、壊れた部品が飛んできたりして、大けがをしそうなこともしばしば。いくつか大手設計会社にも、設計をお願いしていましたが、構想を話しただけで「できません」と、ことごとく断られたんです。そうなると、結局、自分たちでやるしかない。社内で何度も設計と試作機を作り直す日々が始まりました。
 

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脱泡に必要な200Gをついにクリア
 
開発が佳境にさしかかった頃には、本業そっちのけで、試作機開発に没頭してましたね。大手メーカーなら、開発部長や技術部長など上司がいて、リスクや企業収益を秤にかけ、こんな無謀ともいえる挑戦は企画段階でとまってしまっていたでしょう。でも、私自身40歳を出たところでまだ若かったですし、私どもの会社は小さかったですから、幸か不幸か、自分でやると決めればそれができる環境だったんです。開発を始めてからおおまかな機構の仕組みにたどり着くまで約1年、何とか攪拌と脱泡が同時にできて、評価可能な試作機ができあがりまで、さらに2年かかりましたね。

攪拌性能と強いGを共存させるために重要だったのは、容器側の傾斜角度と回転を伝えるためのジョイント部分です。うまく攪拌させるためには、容器側に傾斜角をつける必要があります。その角度を決めるまで、いくつものシャフトをダメにしながら相当の実験を繰り返しました。そして導き出されたのが、45度という角度です。現在の「あわとり練太郎」も45度に統一されています。次に必要だったのが、この角度で設置された容器に回転を伝えるためのジョイント機構。当所、採用を考えたのはユニバーサル・ジョイントと呼ばれる駆動伝達機構でした。今は改善されていますが、当時のユニバーサル・ジョイントでは30度までしか傾斜させられませんでしたから、ユニバーサル・ジョイントを二段階に組み合わせる形で、45度の傾斜角度を作り出しました。この機構であれば、なんとか壊れずに動くものができ上がったのです。実験の際、固まりだしたアルギン酸をカッターナイフで5ヵ所切り、その断面に0.5ミリ以上の泡が2個以上あってはいけないという基準を設けて試してみましたが、ほとんどクリアできました。
 

 
でも物語はこれで終わりじゃなかったんですね。別の課題が浮上してきたんです。
 
ところが、これで完成というわけにはいかなかったんです。無事に動かすことができたことで、もう一つ、別の問題が明らかになりました。試作機で5分、10分程度のテストであれば問題はなかったのですが、2時間、3時間と動かした場合、回転部分から煙が上がって止まってしまい、結局、壊れてしまったんです。これはジョイント部分の油膜が無くなってしまうために摩擦で焼けてしまうのが原因でした。軸受けに塗られている油膜が、何百Gという遠心力をもろに受けてしまって、飛散してしまうんですね。分解してみるとカラカラ状態で、まるで洗浄液で洗ったみたいにきれいに無くなっていました。そこで、お椀のような容器にベアリングを入れ、漏れないように中を油漬けにするというような構造を作ったり、さまざまな試行錯誤を繰り返しました。
 

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スタートから三年 初代「あわとり練太郎」ついに完成。
 
最初からユニバーサル・ジョイントを組み合わせた機構で特許を出願しましたが、商品化のためには、油膜の問題を解決しなければなりませんでした。ジョイントを使う限り、どうしても潤滑油の問題は避けて通れない。そこで、商品化のために思い切ってジョイントを使わないで作ってみようと考えたのです。ジョイントの替わりに用いたのが、Vベルトや丸ベルト。ベルトを利用して作ってみると、これがうまくいった。こうして商品化にこぎ着けたのが、初代「あわとり練太郎」です。これで、約30秒でほとんど気泡のない混合物を作り出すことができました。
 

 
こんなに透明に攪拌されたエポキシ樹脂は見たことがない。
 
もともと電子計測器の開発を行っていたこともあり、その時の顧客の工場に完成した試作機を持っていき、エポキシ樹脂と硬化剤の攪拌を行ってみました。それまでは手で攪拌していましたし、デリケートな素材なので実験にはうってつけだと考えたのです。試作機で攪拌したあと、容器を取り出したら、何も見えない。開けた瞬間、「あっ、どこかにこぼれてしまった」と一瞬錯覚してしまったほど、気泡が全くない透明なものになっていて、容器の底が完全に透けて見えていました。そこまで透明なエポキシはこれまで見たことがありませんでしたから、物性が変わったんじゃないかと不安になったほどです。でも、しっかりと主材と硬化剤が攪拌されていました。確認のために赤色系の顔料(ベンガラ)を耳掻きでひとさじ入れて攪拌すると、全体が均一な赤茶色になった。これで、攪拌がしっかり行われているということが確認できたわけです。

市場に投入したら、思った以上の反応がありました。良い反応も多かったのですが、実はクレームも多かった。そのクレームをひとつひとつ丹念に拾い上げて改良を繰り返したものが、現在の「あわとり練太郎」で、最新のモデルは5代目にあたります。

100グラムの素材であっても200Gの加速度で動かせば、約20キログラムの重量がそのまま駆動部にかかります。その重さに耐え、実用的な遠心力を生み出すまでには大変苦労もしましたが、掛け値なしに、これは立派なものだと自画自賛しています。ここ迄来るのに13年の歳月を要しましたが、今では耐久性、安全性とも自身を持ってお客様に使っていただくことが出来ます。
 

 
その後「あわとり練太郎」の利用分野はドンドン広がりました。 今は粘度の非常に高い素材の攪拌・脱泡に挑戦しています。
 
その後、歯科業界以外にも攪拌脱泡の性能を生かせないかと考え、小型、中型、大型の汎用ミキサーも開発しました。今では、ハイテク分野や大学をはじめとした研究機関でも広く使われるようになっています。又、液晶ディスプレイやプラズマディスプレイの開発など、FPDの製造装置として組み入れられています。今後共、高性能化はもちろん、広い分野へ、そしてグローバルな市場への商品展開を目指してゆきます。
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